脊椎圧迫骨折の治療について

脊椎圧迫骨折は以前から日常診療でよく遭遇する高齢者の代表的疾患でした。20数年以上前は痛みが強ければ3週間前後安静目的で入院、その後痛みが取れて来たら徐々に離床を始めて、あまり痛くなくなったらコルセットを着けて2~3か月は無理をしないという方針で大多数の患者さんに対応していたように思います。その後はビタミンD製剤を処方するぐらいで、それほど熱意をもって診療されていない雰囲気が目立っていたような気がします。

その後、時々受診される患者さんの中に骨折してからけっこう時間も経っているし、椎体変形はあるけれど痛みは治まって来るはずの時期なのに、時折頑固な痛みが持続する高齢者の方もおられました。この頃話題になり始めていたのが、「圧迫骨折後に生じた椎体偽関節に続発する遅発性脊髄麻痺」という病態でした。第12胸椎~第1腰椎などの力学的に負荷がかかりやすい胸腰椎移行部に発生するのが特徴です。後方から広範囲に神経除圧、金属スクリュー固定を併用した場合の手術成績はさっぱり駄目で、前方支柱再建を主軸においた開胸~前方アプローチの手術方法が非常に注目を集め、その理論と手術成績も含めて素晴らしいものがありました。またやや遅れてこの病態に対して後方から経椎弓根的に人工骨ペーストを注入する方法も報告され始めていました。

これらの手術方法があるのは理解はしていましたが、「あくまでも椎体偽関節を生じ、更に脊髄麻痺をきたせば手術適応であろう」と考えていました。それ以外の患者さんには、「痛みが続いていても骨がつぶれて変形がひどいし、仕方がないでしょう。年齢的なこともありますし、痛みに応じて生活してください。痛み止めと骨がしっかりする骨粗鬆薬を処方しておきますので・・・」という説明をしていたことが多かったように記憶しています。また私だけでなく当時の先輩~同僚の医師たちも似たりよったりの対応をしていたと思われます。

今から10年以上前ですが一人の患者さんと出会いました。出張診療先での診察をした70歳前後の女性でした。持病もなく比較的元気な方でした。「3か月以上前からずーと痛みが続いている。近くの病院で圧迫骨折の診断を受けました。でも良くならないのです」と話されていまいた。「特に寝起きの際、動作の変わる瞬間にものすごく痛い」という話も聞きました。診察したところ腰椎のほぼ一定部位に叩打痛があり、痛くて腰を伸ばす動作がとても困難な様子でした。下肢のしびれ、麻痺症状は全く認めませんでした。XPの側面像は椎体の楔状変形と椎体高の減少した圧迫骨折と見立てました。MRIでも神経組織障害の心配はない所見でしたので、いつもの圧迫骨折における一般的な治療方針の説明を行いました。

その患者さんは、いくつかの医療機関を回って同じ様なことを言われていたようですが、食い下がるように訴えるわけでもなく、あきらめるような感じでもなく、淡々と毎週1回の私の外来を受診されていました。そして「この頑固で本当に痛くてどーしようない腰痛を何とかできないのですか?」と受診の度に地道に尋ねられるのです。
通常下肢の筋力が正常であれば、脊椎XP写真は立位で撮影しています。ある日もしやと思い、あえて撮影台に仰向けに寝てもらいました。さらに痛みのある部分の背中にこんもりと枕を入れて、痛みはやや生じますがエビぞり姿勢を保ってもらい、XP側面像を撮影しました。すると楔型に前方部分が潰れていた椎体が、もとの形に戻るぐらい形状変化するのです。椎体内部に大きな空洞も出現していました。「このような椎体偽関節があるんだな。患者さんはそりゃ痛いだろう、しかしこういう撮影をしないと気付くことが難しく、もしかするとこれまでにもこんな症例が結構あったのかも知れない」と強く思いました。患者さんは医者にいろいろ教えてくれるありがたい存在(教師)なのです!

診断は「脊椎圧迫骨折後に生じた、著しい椎体不安定を呈する偽関節」ということになり、神経麻痺症状はありませんでしたが、手術適応があると私は考えました。そのためにどのような手術方法が低侵襲で合理的かつ最大の治療効果を得られるのかをしばらく考え、香川大学病院に入院してもらいました。信頼して任せてくれた患者さんの期待に何としても応えたい!と強く感じていたました。そして、これまで当病院では行われたことの無い、新しい脊椎手術方法に挑戦することになったのです!

この続きはまた次回ブログで更新したいと思います。