健康保険制度における正しい診療とは?

今回のブログは、やや堅苦しい内容になりますが健康保険制度に基づいた診療について述べたいと思います。私自身の経験、時代的背景も考慮したうえでの意見ですが、あくまでも個人的意見であることを最初にお断りしておきます。

開業して早くも5年以上経過しました。様々な患者さんとの出会いがあり、本日まで診療を継続しております。ふと考えると、のべ人数で見れば、膨大な数の患者さんを診療してきたと思われます。外来診療の現場では、様々な受診動機で患者さんが来院されます。最も一般的なのは、「何らかの疾病、怪我などの診療をして欲しい」という患者さんです。ほとんどがそういう方々です。正しく診断し、外来通院で治療、症状緩和のための手当てを受ける、または手術が必要な疾患なので、私自身が院内で日帰り手術もしくは出張手術で治すという場合もあります。また最初に当院を受診したが、実は他科領域の疾患なので、該当する診療科(内科、脳神経外科、耳鼻科、泌尿器科など)へ紹介することもあります。さらには、当院で診断し治療もできることを説明した後に、患者さんの希望により他施設の整形外科などへ「手術適応があり、貴院での治療を希望されています」と、紹介状を添えてお渡しすることもあります。

これらの診療行為がすべて健康保険で賄われていることは普通のことですし、何ら問題はないと思います。しかし、以下の場合はどうでしょうか?いくつかの同様のパターンの患者さんの平均像を示してみたいと思います。どのような感じかと言うと・・・

➀1~2年前もしくは数か月前から症状が続いている。
➁主要な症状、痛みなどは、よくなったり悪くなったりを繰り返している、もしくは徐々に悪くなったような気がする。
➂これまで知人に相談したり、医療機関を複数(3か所以上)受診したりしている。
➃受診した医療機関において治療したが、良くなったとは思えない、また説明もよくわからない。
➄治療方針として、手術治療の説明を複数の医療施設の医師から聞いているが、不安なのでもっと色々話や説明を聞きたい。
➅数か月以内から受診直前までに複数回のXP撮影、MRI検査など各種画像診断を既に受けている。
➆とにかく、もう一度MRI検査をしてほしい。

さらに付け加えると・・・

➇住所が遠方であり、これまでの受診歴は一切なく、実際に通院はできないし、そのつもりもない。
➈仮に明確な治療方針(手術治療など)が示されても、本人には私の治療、手術などを受ける考えは持っていない。

などの特徴が挙げられます。特に考えてしまうのが「とにかくMRI検査をしてくれ」という検査のみを希望するの患者さんへの対応がどうあるべきかといつも考えています。MRI検査は確かに非常に優れた画像診断です。しかし、MRI検査をしたら病気が治るわけではありません。あくまでも臨床症状、兆候から疑われる疾患を素早く正しく診断するツールであり、それを基に有効な治療方針を立てたり、治療効果を判定したりしています。したがって、ほぼ間違いのない診断がなされた慢性的疾患で、同じ部位のMRI検査を繰り返して行うことに大きな意味は見出せません。そのような患者さんには何度も「かなり最近のMRI検査データがあるようなので、前の施設でデータを渡してもらったらいいでしょう。それらのデータを見たうえで必要であれば、それから検査を考えてみてはどうですか?」とか、「おそらくMRIを撮影しても、前回と大差ない検査結果になる可能性が大きいです。結局、費用も時間も無駄になってしまう可能性が高いですよ」と説明しています。

それでも、「必要な検査料金、診療料金をはらうので兎に角MRI検査をして下さい」という方々には、どのようにすればよいのでしょうか?私は「保険診療で扱うのは不適切である」と考えています。保険診療制度は、広く薄く徴収した社会保険料加え、皆保険を維持するために莫大な公費が投入され、現在の国民皆保険制度が成り立っています。自己負担分を支払っても、大部分は健康保険から診療費用は支払われています。前述したように、MRI検査は正しく診断し治療方針に役立てるツールであり、これらの特徴を示す方々に検査をしても、検査だけで終わってしまうのです。

言われるがままに検査をオーダーするのは、医師としてとの診断的思考回路を放棄することにもなりますし、フリーアクセスの原則(医療機関を自由に選べる)も含めた現行の医療保険制度を壊すことに繋がる行為としか思えません。従って、どうしても検査を希望する方には、百歩譲って「すべて自費(自由)診療であれば仕方がないのかな・・・」とも考えています。実際に自費診療として検査を受けた方もおられます。その際、検査によって新たな病態が発見されたとか、やはり治療には手術が必要な状態なので、本人が納得して私の治療を受けることになると、どうなるのでしょうか?その後の治療に健康保険が使われる場合、混合診療に該当するのでしょうか・・・?答えは、これまでの経験において、そのような判断で悩まなければならなくなった患者さんは、1人もいませんでした。
そういうことなのだと思います。

なにかご意見、ご感想があれば是非お寄せいただけたらと思います!